EVパワーエレクトロニクスへのSiC採用がもたらす熱材料のトレンド

EVパワーエレクトロニクスへのSiC採用がもたらす熱材料のトレンド
電気自動車における800Vバッテリへの移行は、GM、ヒョンデ、VW、ルシード・モータースなど、多数の自動車メーカー主導のもと、すでに本格化しています。これらのプラットフォームは、ジュール損失の最小限化と高電圧ケーブルの細径化によって軽量化を実現し、効率を高めています。このような移行の動きは、さまざまな技術や材料の進化のお陰で加速しています。特にSiC(炭化ケイ素)MOSFETは高耐圧と高周波スイッチング特性が向上したことから、大きく貢献しています。Si IGBTと比較すると、SiC MOSFETはダイサイズがより小さくなり、ジャンクション温度が高くなるため、より効果的な熱管理が必要となります。
 
この課題に対し、IDTechExでは、熱設計の変更から各種ダイ接合材料および熱伝導材料(TIM)の利用まで、さまざまな新しい熱管理戦略に注目してきました。このような移行によって熱管理市場に大きな機会が生まれることが期待されており、TIMの年間市場価値は2034年までに9億ドルを超える見込みです。IDTechExの最新調査レポート『EVパワーエレクトロニクスの熱管理 2024-2034年:予測、技術、市場、トレンド』では、市場の潜在的推進要因を明らかにし、Si IGBT、SiC MOSFET、GaN HEMTの各インバータに関する各種TIMの市場の見通しについて包括的な分析を行っています。
 
IGBTからMOSFETへの移行がもたらす熱管理戦略のトレンド。 Source: IDTechEx
 
高性能TIM
熱伝導材料(TIM)は通常ベースプレートとヒートシンクの間に挿入されます。SiC MOSFETにおいては、より大きな熱流束への対応が必要になっているため、より熱伝導率(TC)の高いTIMへの需要が急増するとIDTechExは予想しています。2024年現在、このようなTIMの代表的な熱伝導率は2.5~3W/m・Kですが、2034年までに5W/m・K、ないしは6W/m・Kを超えるケースも出てくると予想されています。これは、TIMの市場価値の増大に比例して単価が上昇することに対応する形となるでしょう。生産量の増加がTIMの平均コストの引き下げにつながる可能性はありますが、2024年時点ですでにTIM2材料の大量生産が可能なことを踏まえると、平均熱伝導率の向上が生産性の向上よりも速いペースで実現されることになるだろうとIDTechExは見ています。
 
興味深い例として挙げられるのが、より高性能なTIM2材料であるハネウェルのPTM7000です。6.5W/m・Kという優れた熱伝導率を持ち、すでにオンセミのVE-Tracシリーズで使用されています。IDTechExの最新調査レポート『EVパワーエレクトロニクスの熱管理 2024-2034年:予測、技術、市場、トレンド』では、EVパワーエレクトロニクスで使用されるTIMの熱伝導率、密度などの特性について包括的に解説しています。
 
ダイ接合材料および基板接合材料
 
従来のダイ接合材料および基板接合材料は一般的にはんだ合金で構成されており、ダイ接合の場合は50~100µm、基板接合の場合は100~150µmのボンドライン厚を特徴としています。これは非常に優れた性能ではあるのですが、IDTechExの知る限りでは、テスラ、BYD、ヒョンデなどを始めとした大手自動車メーカーでは、焼結銀ペーストを採用することが増えているのです。従来のはんだ合金と比較すると、焼結銀ペーストは熱伝導率と導電率が優れており、接合強度も高いなど、多くの利点を備えています。しかし、焼結銀ペーストはコストが高く処理時間も長いため、ワイドバンドギャップ半導体を用いたインバータなど、主としてその利点を真に必要とする用途で採用されることになりそうです。
 
焼結銀ペーストのコストは、顧客との関係や受注量、サプライヤーなどの要因によって大きく変わる可能性があります。IDTechExでは、焼結銀ペーストのコストははんだ合金の優に5~10倍になる可能性があると見ています。例えば、IDTechExが得た情報によると、某日本企業が開発した焼結銀ペーストは1グラム当たり2ドル前後ですが、この価格は生産量の増加とともに大幅に下がる可能性があります。概して、大手自動車メーカーが推し進めていることもあり、はんだ合金を焼結銀ペーストに置き換える動きが見受けられ、その結果材料サプライヤーに市場機会が生まれています。
 
また、コストの観点から、焼結銅ペーストという別のアプローチが提案されています。焼結銅ペーストを採用すれば、焼結銀ペーストよりも低いコストで同等の性能を実現できると考えられているからです。あるサプライヤーによると、焼結銅ペーストのコストは焼結銀ペーストの半額程度になるだろうということです。しかしながらIDTechExが見たところでは、2024年現在、EVパワーモジュールにおいて銅焼結技術が広く商用化されている事実はありません。焼結銅ペーストは生産量が限られており、また技術的な課題も存在していることから、現時点では焼結銅ペーストの方が焼結銀ペーストよりもコストが高くなることが往々にしてあります。IDTechExの調査レポート「EVパワーエレクトロニクスの熱管理 2024-2034年:予測、技術、市場、トレンド」では、銀と銅それぞれの焼結技術の市場機会について包括的な解説を提供しており、競合状況とサプライチェーンに焦点を当てつつ、基板接合、ダイ接合分野の有力企業について分析しています。
 
さらに詳しくは、最新調査レポート『EVパワーエレクトロニクスの熱管理 2024-2034年:予測、技術、市場、トレンド』で、ご確認ください。
 
IDTechExの"電気自動車ポートフォリオ"調査レポート
IDTechExの"熱管理ポートフォリオ"調査レポート
 
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