フォーエバー・ケミカルを対象とする新規制

Shining red violet PFAS cubes view from the top. Conceptual background. 3D Illustration
残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)は人体の健康や環境に有害な化学物質の廃絶や制限を目的とした初の世界的条約で、2001年のその採択は歴史的な瞬間となりました。2009年、当条約にペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)が追加されたことで、PFOSとその関連物質がPFAS類としては初めて国際レベルで規制されたこともまた画期的でした。PFASとはペルフルオロアルキル化合物とポリフルオロアルキル化合物のことであり、その環境残留性から通称「フォーエバー・ケミカル(永遠の化学物質)」と呼ばれています。PFOA(ペルフルオロオクタン酸)とPFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)がそれぞれ2019年と2022年に追加され、当条約の規制を受ける「フォーエバー・ケミカル」はPFOSだけではありません。
 
ストックホルム条約が国際的に広がっているとはいえ、そこに含まれるPFAS化学物質がわずか3種類だけでは、5000種類近くの物質が含まれるとされるPFAS類(OECD(経済協力開発機構)によるPFASの定義)の表面をなぞったにすぎません。研究によってさまざまPFASが人体の健康や環境にもたらすリスクの特定が進んでいることから、世界中でPFASの規制に向けた活動や法整備がより積極的に行われ始めています。
 
PFAS規制の新たな枠組みが国際的に発展する可能性があることを踏まえ、企業はPFAS規制の最新状況を把握し、自社が受ける可能性のある影響を特定することが不可欠です。特に、自社技術がPFASの利用で成立しているであろうハイテク産業の企業です。IDTechExの調査レポート「PFAS(ペルフルオロアルキル化合物とポリフルオロアルキル化合物)2024年:新たな用途、代替品、規制」https://www.idtechex.com/ja/research-report/per-and-polyfluoroalkyl-substances-pfas-2024-emerging-applications-alternatives-regulations/999}では、8つの異なる国・地域のPFASを取り巻く規制を深く掘り下げ、5つの主要新興市場の企業を対象に、規制から各業界が受ける影響を把握できるようになっています。本記事では、PFASを取り巻く世界の規制状況をアジア太平洋、米国、欧州の3主要地域別に端的に考察します。
 
アジア太平洋(APAC):ストックホルム条約に準拠
中国、日本、韓国などのAPAC主要国では、ストックホルム条約で規定されている特定PFASへの規制を導入・施行する流れが一般的になっています。最も顕著なのは、主要な化学物質(PFOAなどのPFASを含む)生産国である中国です。しかし、中国は化学産業への規制強化を広範囲で進めており、2023年には初めて重点管理対象新汚染物質リストを発表しています。
 
とはいえ、ほとんどのAPAC諸国では、ストックホルム条約で規定されているPFAS以外にPFAS禁止を広げる動きは見られません。しかし、特定の業界を対象にPFAS規制が導入される事例はあります。例えば、2022年に韓国は化粧品業界における8種類のPFAS禁止を提案しています。
 
欧州:PFAS規制への取り組みは最も積極的
 
欧州連合(EU)によるユニバーサルPFAS(すべてのPFAS)制限の導入は、PFAS規制に向けて検討すべき最も積極的な取り組みです。この制限下では、ごく一部の特殊例外を除き、EU内ですべてのPFAS製造、輸入、使用が禁止されることになります。欧州委員会は現在、この案について審議中であり、昨年は関係者から5000件を超える意見が寄せられました。
 
ユニバーサルPFAS案では、期限付き例外措置が認められ、PFASに代わる適切な代替物質がない、または代替物質開発に時間を要する特定業界は、規制に対応するまでの猶予期間が長く設けられます。例えば、当初の案では、燃料電池用プロトン交換膜が、期限付きの例外措置の対象分野とされていました。PFSA(ペルフルオロスルホン酸)膜はこの分野の鍵となる材料であり、IDTechExのレポートでは、この重要なフッ素系材料の代替候補を考察しています。
 
米国:PFASへの取り組みは国・州レベルで複合的
 
米国はPFASの主要経済市場の1つですが、米国でのPFAS規制への取り組みは定まっているとはいえません。そもそも、米国は厳密にはストックホルム条約の加盟国ではありません。国レベルでは米国環境保護庁(EPA)が有害化学物質の規制・管理を管轄しており、米EPAにとっての現在の主な優先事項は、都市用水に含まれるPFASのレベルを抑制することです。とはいえ、国レベルで明確に禁止されているPFASはありません。代わりに米EPAは、段階的に廃止されたPFASの製造、輸入、使用を企業が再開できないようにする規制を設けています。企業による特定PFASの自発的な段階的廃止を奨励する制度もあります。
 
一方、州レベルでは、はるかに積極的なPFAS規制導入が進んでいます。メイン、ミネソタ両州は、EUで審議中の案と同様のユニバーサルPFAS制限を導入しました。食品包装や化粧品など、消費者が直接触れる分野でPFASを制限しようとする州もあります。注視すべき市場は、カリフォルニア州です。同州では、すでに多数の産業でPFASの規制を進めており、2024年には州議会議員が、州内でPFASを全面的に禁止するという法案を提出しています。
 
PFASに関してさらに詳しくは、IDTechExの調査レポート「PFAS(ペルフルオロアルキル化合物とポリフルオロアルキル化合物)2024年:新たな用途、代替品、規制」https://www.idtechex.com/ja/research-report/per-and-polyfluoroalkyl-substances-pfas-2024-emerging-applications-alternatives-regulations/999}でご確認ください。
 
For the full portfolio of sustainability market research from IDTechEx, please visit www.IDTechEx.com/Research/Sustainability.